再度トライ
魚を提供するからか、店のカラーは海のブルーを基調としている。フィッシュ&チップスは国民食なので、是非ともその味を楽しめるようになりたいと何度かトライした事がある。しかし、いずれも失敗に終わった。
アメリカ、ブラジルにいた時も、ブリトーだのフェイジョアーダだの、第一印象はクソまずかったものを克服してきた。郷に入れば郷に従えなのだ。だからその国民の食べるものを食べ、その味を楽しめるようになりたい。だが、こんなに長く住んでいても、フィッシュ&チップスだけはその味を楽しめない。何というか、「ただタルタルソースの味じゃん」で終わってしまうのだった。
その小さな店に入ると、中は大盛況だった。小さなテーブルが目一杯ならべてあり、かなり窮屈だ。幸い席を確保できたので、ウエイトレスがやって来ると、普通のフィッシュ&チップスとコーラをオーダーした。客層は裕福そうな若者カップルと中年ばかりで、この辺りの住人に違いない。アジア人は僕とUさんだけで、あとはヨーロピアンばかり。
キャッシャーを見ると、テイクアウェイもしており、そちらも客の出入りが激しい。なるほどここはローカルに愛される国民食の店なのだ。しかも裕福な人達が食するフィッシュ&チップスなので、きっと洗練されているのだろう。
チャッツウッドのフードコートで食べた時、衣だけでなく皿にまで油がべっとり溜まっていた。それを食べた後、お腹を壊したのを覚えている。あれは酷かった。フィッシュマーケットでも2回くらい食べた事があるが、何の感動もなかった。他にも日本から訪れた人を案内する時に、どこかで食べたと思う。だがあまり記憶に残らないほど、味が無いのだ。
だが周りの客が美味しそうに食べるのを見ると、期待は膨らむ。ウエイトレスがついに料理を運んで来ると、それは紛れもなくフィッシュ&チップスの王道だった。白い皿の上に、黄色の衣に包まれた白身の切り身が横たわり、タルタルソースが小さな容器に添えられ、4分の1にカットされたレモンと、残りのスペースを太めのフレンチフライが埋めている。
立ち上る湯気に鼻を近づけ、嗅いでみると匂いは悪くなかった。毎日フライヤーの前で作業しているので、油のコンディションは匂いで分かる。例えば、あまりに混雑して、油を取り替えるタイミングを逃した場合、繁盛店であっても油の焦げたヤバい匂いがする。あるいは、流行ってない店がコスト削減のため、ずっと同じ油を使い続けていてもそうだ。フライヤーから煙が出て、その嫌な匂いが店に充満する。
僕もコスト削減を心がけ、なおかつ忙しくて、油を交換するタイミングを逃す事があって、変な煙が出て来た経験が何度かあった。うちの場合、唐揚げを大量に揚げるので、油が痛みやすい。なぜなら衣に醤油を染み込ませているからだ。
だがそのヤバい匂いは、流行っているマクドナルドでも、価格競争で苦しむスーパーの惣菜セクションからも感知する。そういう時は揚げ物は買ってはならない。
衣を着た魚の切り身を、フォークとナイフで一口サイズにカットし、タルタルの小皿にそれを突っ込んでから、口に運んだ。どんなに美味い魚かと期待したが、やはり淡白な白身の味とタルタルの味だ。何の変哲もない味。まあ、揚げたてだし、衣はサクッとしてるし、悪くはない。だが揚げたてだと、熱すぎて淡白な白身の味が、なお解りにくい。
「レモンかけて冷ますか」
レモンを思い切り絞り、熱々の切り身を冷まして、再びタルタルの小皿に突っ込んだ。今後は指でつまんで、口に運んだ。やはりこんなものは、フォークとナイフを使うような食べ物ではない。レモンの爽やかさが加わると、若干味も良くなった。だがそれでもまだ何の変哲もないタルタルの味だ。
それにしてもこんな魚の切り身と、イモだけの食事って何だ。これで栄養バランスが取れていると思うのか。イギリス人はどうしてこんなものを食べるのか。そしてこれが美味いと言えるのか。揚げた魚と揚げたイモ。全部揚げ物じゃないか。こんなものを毎日食べているから、オージーは油臭いのだろう。