Kyusyu
何でも揚げるのが正しいのか…
店の工事が進む中、メニューも決めた。売れ線が分かるまで、とりあえず全てがテストのつもりでやる。取引する業者を探していたが、決めなくてはならない。
フィッシュマーケットに通うために、車を買わなくてはならない。三菱マグナという中古車を、日本語が出来る韓国人から買った。
彼はお調子者で、怪しかった。金を払い終わった後に「全然気にならない程度なんですけど、僅かに水がフロントガラスから染みてくる事もあります」と言って去った。
乗っていると、後からそれは問題だと分かった。確かにダラダラと水が入ってくる訳ではないが、フロントガラスが曇ってしまうのだ。特に夜運転するのに危険だ。視界が完全にぼやけてしまう。
馬鹿な買い物をしたと、兄は後悔した。結局、その状態で数ヶ月耐えた。店の売上が出て来た時に、同じ車種のまともな中古車を購入した。
フィッシュマーケットには、幾つかの店が入っている。そのうちのクローディオという店に決めた。兄が毎日ネタを買いに行く事になった。
肉はチキンだけを使う事にした。オージービーフが安いとはいえ、チキンと比べると高い。
ニュートラルベイには「九州」という日本食レストランがある。家の近くにあって、かなり流行っている。何回か勉強のために食べに行った。人気のメニューを見ると、照り焼きチキンだと分かった。周りの客も結構オーダーしていた。
試しにオーダーしてみると、驚いた。
「何だこれ…揚げてるじゃないか」
揚げたチキンに照り焼きソースを絡めてある。なるほど、衣にタレが滲みやすいし、調理時間も揚げた方が早い。でも、これを照り焼きと呼べるだろうか?
「照り揚げと呼ぶべきじゃないか」
チキンだけではなかった。魚も揚げていた。このレストランが人気があるのは、揚げ物ベースにしているから?…それは分からない。
「フィッシュ&チップスのオージーは結局、揚げ物しか食わんのか…」
試行錯誤の結果、そんな悟りの境地に立ったのだろうか?日本人からすると「変わった日本食」だ。生き残るために、プライドを捨てたのだろうか。
(レストラン「九州」は、今も同じ場所で繁盛してます。僕が住み始める前から、今まで続いていおり、あっぱれです)
「ちょっと嫌だよな」
「まあね…どうせ“焼き“の意味が分からないだろうって、何でもかんでも揚げるのはどうか…」
初めて食べに行った時は、驚いたし、そう思った。だが、何度か行くうちに、慣れてきた。そして何より、店を始めてから、九州から学んだ事が大いに助けとなった。
まずはチキンだけでやってみる事にした。ポークはいらない。もし必要なら後からビーフもやってみる。それでチキンは「チキン&ゲーム」という会社から買う事にした。
店にディスプレイカウンターを搬入していた時、大柄の男性2人が僕の所にやって来た。
「何の店ですか?」
「日本食のテイクアウェイ(オーストラリアではテイクアウトとは言わない)ですよ」
「チキンの業者探してますか?うちの会社、良かったら考えてみて…」
そう言って、名刺を渡された。
「チキン&ゲーム…(変な名前だな)」
ゲームとは獲物とか狩猟?みたいな意味もあるらしい。その時、僕は知らなくて、変な名前だと思った。
「うちのチキンは、絞めてから12時間以内にデリバリーします。シドニーで最も新鮮なチキンを提供できます」
「へえ、それは良いね」
ありがたいタイミングだった。
「じゃあ、いつオーダーすればいいの?」
「前日で大丈夫ですよ」
「分かった。店がオープンする日が決まったら、お願いするよ」
「ありがとうございます、じゃあ電話を待ってます」
「ところでさ、君たちはどこ出身なの?」
2人は真っ白の肌だが、少し訛っていた。
「ロシアです。うちの会社は、ロシア人の経営なんですよ」
「へえ、そうなんだ。ロシア人に会ったのは初めてだよ。よろしくね」
そんな感じで、即決した。
どれも試してみないと分からない。これまで、こちらから出向いた会社は、まともな対応をしてくれた事がなかった。向こうから営業に来る会社の方が、よほどやる気を感じる。

