メロウでスロウ
トン・ジョビンの「Love,Strings & Jobim 」「The wonderful world of Antonio Carlos Jobim」というアルバムをシティの10ドルCDショップで買ってから、ずっと気に入って聴いている。10ドルでこんなに楽しめるのは、何とラッキーな事かと思う。恐らくジャズCD専門店バードランドでは20ドルくらいで売られていたに違いない。
10ドルCD屋の台頭だけでなく、所有のCDをiTunesに入れてプレイリストを作り、それを空のCDに録音出来るようになって、従来のCD屋は苦戦を強いられている。価格破壊のCD屋が乱立し、どこも新譜以外の作品は全て10ドルとは言わないまでも以前より安くなっている。
バードランドは閉店したと思っていたが、ウエスレー・ミッションの近くに移転したようだ。だが僕の興味があるのは50〜70年代のものがほとんどなので、安売りの恩恵を受けている。わざわざバードランドを探す必要もない。おかげで今まで迷っていたものも衝動買いしている。
これまでのCDコレクションだけで700枚くらい所有しているが、増えれば増えるほど、全てを満遍なく聴くのが不可能となる。一度しか聴いてない作品もあるし、気に入っていたのに聴く機会を失ったものもある。
好きになれなかった作品には、数年経ってから「敗者復活」の機会を与えるようにしている。リスナーとして、ギタリストとして成長した後、良さを感じられるかも知れないからだ。初め嫌いだったものが、大好きになる事もある。
例えば、20歳の時に聴いたパット・マルティーノは嫌いだった。だが今では店で毎日かけており、彼を宣伝しているかのようだ。ロリンズの「The Bridge」も20歳の頃には良さが分からなかったが、今では大好きだ。
以前嫌いでも好きになる可能性があるので、今聴かない作品を無下に扱ったりはしない。だが、そのために「ああ、聴いてやらんといかんな」とうしろ髪を引かれる思いになる。忙し過ぎて純粋な音楽鑑賞の時間はない。店でクレイジーに動き回りながら聴くか、ホーンズビーへの行き帰りの車中で聴くだけだ。いずれも大音量で聴けるのは良いが、座って音楽だけに集中し、浸るという事は出来ない。
しかし聴く動機はほとんど勉強のためだ。音楽が好きでギターを弾いているはずなのに、研究の対象だ。それも面白いが、純粋でない気がする。
気に入っているトン・ジョビンの作品は、それとは無縁なのが良い。もちろんコード進行とか、ブラジルのリズムとか、気になる事が満載だ。だが、そんな技術的な詳細を凌駕する美しさと癒しがあって堪らない。最近はメロウでスロウなものに惹かれるようになった。クリフォード・ブラウンの「With Strings」も大好きで、相変わらず良く聴いている。
慢性疲労のせいか、癒しの音楽が好きになって来た。メロウでスロウなものが、こんなに良いとは知らなかった。ただ、大好きだったメセニーとヘイデンの作品と、ジャレットの復帰第一弾ソロピアノは、Uさんと結婚してからは聴かなくなった。