魅力的なビジネス
よく賑わっている店だ。フロアの広さは40平米も無いが、オープンエアも含めると50席はある。ひっきりなしに客は出入りして回転も良さそうだ。話し好きなオージーは長居すると思うのだが、観ていると意外にも席を立つカップルも多い。そしてテイクアウェイも出来るので、キャッシャーの前に時々列が出来るほど。
フィッシュ&チップスを馬鹿にしていたが、ビジネスとして見ると魅力的だ。何せ原価が安い。オーストラリアでも同じく肉より魚の方が高価ではあるが、タラとかバラマンディを使うとしても冷凍できるのでロスが無い。まさか生の新鮮な魚を揚げているとは思えないし、揚げ物だし、オージーの味覚だし、味の違いを感知できるとも思わない。
調理は簡単だ。誰でも出来る。フレンチフライ(アメリカ英語)と魚を揚げるだけなら、バイトには困らない。面倒臭い作業が一切なく、仕入れもシンプル極まりなし。食中毒の心配もない。そう思うと、フィッシュ&チップスというビジネスが途端に魅力的に見えてきた。
淡白な白身魚の揚げ物を食べながら、そんな事を考えていると、少し美味しく感じた。それはビジネスとしての旨みを感じたからで、実際の魚の旨みは大した事はなかったが。仕事の話はしたくないと思いつつも、結局いつも仕事の話をしてしまう。
「もしさ、店を増やせって言われたら、唐揚げ&チップスの店をやろうと思う」
きっと上手く行くと思う。うちの唐揚げはシンプルだし、誰でも出来る。よく売れてるし、オージーだって結局は魚より肉が好きなのだ。きっと唐揚げ屋は成功する。たとえ大成功しなくても、失敗はしないだろう。Uさんもそのアイデアは良いと言ってくれた。
「ウィンヤードみたいな地下でなくてさ、こんな海の近くだったら毎日気分が良いだろうな」
モスマンなら治安は良いし、金持ちばかりだから客単価を上げて適正価格で勝負できる。もう価格競争に巻き込まれるのは嫌だ。沢山売れなくても作業は簡単だし、二人で回せるので、儲けは出るはずだ。魚よりチキンの方が仕入れは安いだろうし、もしかするとフィッシュ&チップスより儲かるんじゃないか。
フライヤーの前で油まみれの生活にうんざりしているのに、そんなアイデアにときめいてしまうとは。ビジネスとしては儲かるが、健康に悪いし、それが自分の使命と言えるだろうか。人が病気になるよう仕向けて、金を儲ける事に気が咎める。
タルタルソースが無くなり、塩を振りかけた。淡白な白身は塩だけのシンプルな味の方が、味が感じられた。レモンと塩だけの方が、むしろ良いかも知れない。タルタルにつけると、その味が強すぎて魚の味を楽しめないのだ。もちろんソースの味も美味しいので、それはそれで良いのだが。
図太いチップスに塩を多めにかけると、しょっぱいのでケチャップをつけて食べている。最初はタルタルにつけていたが、それではすぐに無くなってしまうと思い、ケチャップを頼んだ。淡白な白身魚の一切れだけでは腹が減ってしまう。腹を満たすのはチップスであり、チップスが無ければ食事にならない。
そう考えると、結局今回もフィッシュ&チップスを食べて美味しいとか、感動する所までは至らなかった。